図書館情報技術論

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1. 図書館業務システムの構成
2. 図書館業務システムの機能―ソフトウェアの構成
3. オンラインサービス―ネットワークによるサービス

1. 図書館業務システムの構成

1.1 システムの構成

図書館業務システム全体の構成要素 (基本的には、図書館業務用以外の通常のシステムでも同様)
- ハードウェア
- ソフトウェア
- ネットワーク

ハードウェア面の構成
- サーバ
- 業務端末
- 利用者端末
- ネットワーク設備 (LAN)、など

「クライアントサーバ型」 (Client Server System) と「Web型」の違いは何か？

ソフトウェアの基本的な設計が異なる。

なお、最近は「オンプレミス型」と「クラウド型」と呼ばれることが多い。

観点	クライアントサーバ型	Web型
1. 処理の分担	サーバ側と端末側とで処理を分担して行う分散処理型。	ほとんどの処理をサーバ側で行う集中処理型。
2. 専用ソフトウェア	サーバと端末の両方に必要。	サーバのみに必要。
3. サーバ側の負荷	Web型よりは負荷が軽い。	サーバに負荷が集中するため、負荷に耐えられる高い信頼性が要求される。
4. 端末の性能	専用ソフトウェアの動作に必要な性能が要求される。	Webブラウザが動作すればよい。
5. バージョンアップの際のソフトウェアの変更	サーバと端末の両方で必要。	サーバのみに必要。

「オンプレミス型」 (on-premises) と「クラウド型」 (cloud) の違いは何か？

機器やシステムの設置形態が異なる。

オンプレミス型	クラウド型
使用者が独自に、使用する施設の構内に設置。	外部の機器やシステムを、ネットワーク経由で利用。
機器やシステムを所有するのは、使用者自身。	機器やシステムを所有するのは、外部の業者。
ソフトウェアの面では、「クライアントサーバ型」。	ソフトウェアの面では、「Web型」。
「サーバー設置型」や「導入型」とも呼ばれる。	「SaaS型」 (Software as a Service) とも呼ばれる。

1.2 ハードウェア構成

「サーバ」 (server) とは？
- サービスを提供するコンピュータ。
- 図書館業務システムのサーバの例: 業務サーバ、Webサーバ、など。
- その他のサーバの例: データベースサーバ、メールサーバ、DNS (Domain Name Server)、など。
- サーバ関連の注意点: 二重化などの冗長化構成、データのバックアップ、セキュリティの高い部屋への格納、など。

サーバには専用のコンピュータが使われることが多い。(UNIXサーバ、PCサーバ、など)

サーバの例

出典: 富士通 - サーバ [富士通は、「ラックサーバ」、「UNIXサーバ」、「基幹IAサーバ」などの名称を用いている。]
https://www.fujitsu.com/jp/products/computing/servers/ (accessed 2021-03-31)

「業務端末」とは？
- スタッフが実際の作業を行う際に使用する端末（クライアント）。
- 業務端末にはパソコンが使われることが多い。

業務端末用の特殊な周辺機器の例

バーコードリーダ
- 出典: 富士通 - バーコードタッチリーダ（USB） FMV-BCR215
  - https://jp.fujitsu.com/platform/pc/product/peripheral/ocr/fmv-bcr215/ (accessed 2021-03-31)
レシートプリンタ
- 出典: 富士通 - サーマルプリンタ（レシートプリンタ）FP-2000シリーズ
  - https://www.fujitsu.com/jp/group/fit/products/printers/fpseries/fp2000/index.html (accessed 2021-03-31)
RFIDタグ・リーダライタ
- 出典: 富士通 - RFIDタグ・リーダライタ
  - https://www.fujitsu.com/jp/group/frontech/solutions/business-technology/intelligent-society/rfid/ (accessed 2021-03-31)

「利用者端末」とは？
- 利用者が資料検索などに利用する端末。
- 検索用の端末はOPAC端末とも呼ばれる。
- 利用者端末にはパソコンが使われることが多い。
- タッチパネルやレシートプリンタなどを備える場合もある。

「LAN」 (Local Area Network) とは？
- 建物内など比較的狭い範囲に限定されたネットワーク。

2. 図書館業務システムの機能―ソフトウェアの構成

2.1 データの管理＋トランザクション処理

図書館業務システムの本質は？
- さまざまなデータを管理するデータベースシステム。

「トランザクション処理」 (transaction processing) とは？

トランザクション処理とは、関連する複数の処理や操作を一つの処理単位にまとめて管理する方式。複数の処理を連結した処理単位をトランザクション（transaction）という。

出典: IT用語辞典 e-Words
https://e-words.jp/ (accessed 2021-03-31)

図書館業務での「トランザクション」とは？
- 貸出、返却、予約など、ひとまとまりで実行されるべき処理。
- （例）貸出は、資料のデータと利用者のデータの両方に、貸出日などのデータの書込みが必要。
- 具体的なデータの内容や書込み方法などは、システムによって異なる。

「トランザクション処理」が失敗した場合の注意点
- 整合性を保つためには、相互に関連するデータを処理の実行前の状態に正確に戻す必要がある。
- もし処理が途中で失敗した場合、そのまま放置すると、データの整合性がとれなくなってしまう。
- （例）貸出で、資料と利用者のどちらか片方の書込みに失敗すると、データが不正確になる。

2.2 各種の機能

利用者情報の管理とは？
- 情報の登録 → IDの決定 → カードの交付 → 更新作業 → 削除などの一連の業務。
- 利用者情報には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどがある。
- 登録の際には、住所を確認できるものを提示させることが多い。(運転免許証など)
- 登録後には、有効期限ごとに更新作業が必要。
- 利用者情報は個人情報であり、厳重な管理が必要である。データベースだけでなく、記入した登録票などの管理も重要であるので、注意しなければならない。

資料の管理とは？
- 受入は、資料を利用可能とするための登録作業である。
- 登録する情報には、書誌情報と管理情報とがある。
- 書誌情報とは、資料に関する基本情報である。(例: タイトル、著者、出版者、出版年、ISBNなど)
- 管理情報とは、図書館時独自の管理用の情報である。(例: 受入年月日、資料区分、所蔵館情報、所在情報、貸出可否など)
- 除籍とは、不要になった資料を廃棄するための手続きである。
- 除籍作業の際には、現物の処理と同時に登録情報の消去も必要である。
- 除籍情報を、一般の管理情報とは別に管理する場合もある。
- その他の管理業務には、移管（所蔵館変更）、修理（貸出停止）などがある。

MARCについて
- 書誌情報のもとになるデータは、自館で作成したり、外部機関が提供するものを導入したりする。
- 外部機関が提供する書誌データは、MARCと呼ばれる。
- 日本で提供されているMARCには、国立国会図書館のJAPAN/MARCや、民間の各種のMARCなどがある。
- 海外のMARCには、アメリカ議会図書館のMARC 21などがある。

MARCの例

JAPAN/MARC
- 出典: 国立国会図書館 - JAPAN/MARCマニュアル・フォーマット
  - https://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/jm/index.html (accessed 2021-03-31)
TRC MARC
- 出典: 図書館流通センター - TRC MARC
  - https://www.trc.co.jp/solution/marc.html (accessed 2021-03-31)
MARC 21
- 出典: Library of Congress - MARC STANDARDS
  - https://www.loc.gov/marc/ (accessed 2021-03-31)

ISBNは、書籍を区別するための国際的な識別番号である。日本では日本図書コード管理センターが管理している。
- 出典: 日本図書コード管理センター
  - https://isbn.jpo.or.jp/ (accessed 2021-03-31)

貸出・返却の管理とは？
- 資料とそれを借りる利用者とを結びつけたり、切り離したりする作業。
- 利用者カードなどを用いて利用者IDを入力し、バーコードリーダなどを用いて資料コードを入力する。
- 貸出処理の流れ
  1. 利用可能かどうかのチェック: 利用者IDが有効か？、貸出冊数の上限を超えていないか？など。
  2. データベースの更新: 利用者データに対しては資料データを、資料データに対しては利用者データを登録。
  3. 利用者への提供: 資料に加えて「貸出日、資料名、返却期限」などを印刷したレシートを配る場合もある。
- 返却処理の流れ
  1. 返却処理では資料コードのみが必要。
  2. データベースの更新: 利用者データから資料データを、資料データから利用者データを削除。
  3. 資料の配架。予約資料の場合は予約者への貸出の準備。
- 返却処理の注意点: プライバシー保護の観点から、返却後は記録を残さない。

検索とは？
- 目録を用いて資料を探す作業。
- 一般的なOPACの検索項目は、書名、著者、出版者、件名、出版年、ISBNなどである。
- 利用者用端末では、AND、OR、NOTなどの論理式の組み合わせや、検索結果のソートなども可能な場合が多い。
- 業務用端末では、資料コード、請求記号などでも検索できるようにしている場合が多い。

予約とは？
- 貸出中の資料が返却されて貸出可能になった際に、優先的に借りることができるように予約する処理。
- 検索処理と連動して、「検索」→「ヒット」→「貸出中」の場合に続けて行われることが多い。
- 同じ本が2冊以上あった場合、公平性の確保のためには、書誌ごとに待ち行列を作る。
- 予約処理では、利用者データに、資料に関するデータと予約に関するデータが書き込まれる。
- 予約資料の返却処理の例
  1. 返却処理が行われると、次の予約者が引きあたり、「予約引当票」が印刷される。
  2. スタッフは資料を予約棚に置いたり、配送先ごとのボックスに入れたりする。
  3. 電子メールでの連絡を希望している利用者には、予約引当の電子メールが送信される。

蔵書点検とは？
- 登録されている資料の存在を確認する作業。
- 資料の確認作業には、バーコードリーダやICタグリーダを使うことが多い。
- 入力されたデータと、全資料のデータを突き合わせることにより「不明本」を抽出することができる。

統計とは？
- 利用状況を把握してサービスの改善につなげるための情報。
- 統計項目には非常に多くの種類があるが、たとえば、登録者数、蔵書冊数、利用者数、貸出冊数、貸出の多い資料のランキングなどがある。

図書館の統計の例
- 出典: 日野市立図書館 - 日野市立図書館統計
  - https://www.lib.city.hino.lg.jp/library/toukei/index.html (accessed 2021-03-31)

選書、発注とは？
- 受入の対象となる資料を選定し、書店などに発注する作業。
- 公共図書館では書店などの提供するシステムを使うことも多い。

レファレンス支援とは？
- 将来役立てるためにレファレンスの記録を保存し検索できるようにする機能。
- 図書館業務システムに組み込まれている場合もあるし、別に管理されている場合もある。

3. オンラインサービス―ネットワークによるサービス

3.1 WebOPAC（インターネットからの検索・予約）

「WebOPAC」 (Web Online Public Access Catalog) のメリットとは？
- 時間や場所に制約されないため、広い範囲の人が利用できる。

WebOPACの例

岩手県立図書館 - 蔵書検索・予約
 https://www.library.pref.iwate.jp/opac/advanced-search (accessed 2021-03-31)

3.2 横断検索

都道府県立図書館などで提供している横断検索とは？
- 各図書館のWebOPACを連結する機能。

横断検索の例
- 岩手県立図書館 - 県内図書館横断検索
  - http://www.library.pref.iwate.jp/iliswing/network/page/We_kensaku/oudan_index.html (accessed 2021-03-31)

3.3 ホームページによる情報発信

利用案内とは？
- 図書館の利用方法、WebOPACの利用方法などを掲載。
- 数か国語の利用案内を掲載している図書館もある。

多言語の利用案内の例
- 出典: 横浜市立図書館 - 利用案内（外国語）[現在はリンク切れ]
  - https://www.city.yokohama.lg.jp/lang/residents/en/living/library/foreign.html (accessed 2020-04-01)
- [参考リンク] English - Yokohama City Library General Information（横浜市立図書館案内）
  - https://www.city.yokohama.lg.jp/lang/residents/en/life/libinfo-en.html (accessed 2023-04-01)

お知らせとは？
- 休館日やイベントの企画などを掲載。

お知らせの例
- 出典: 千代田区立図書館 - イベント・展示情報
  - https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/infoevents/ (accessed 2021-03-31)

読書案内とは？
- 新着図書やベストリーダ（貸出ランキング）などを掲載。

読書案内の例
- 出典: 三鷹市立図書館 - 本の紹介 (新着図書の紹介・貸出ランキング・予約ランキング) [現在はリンク切れ]
  - https://www.library.mitaka.tokyo.jp/introduction/ (accessed 2020-04-01)
- [参考リンク] 検索・予約 - 新着案内
  - https://www.library.mitaka.tokyo.jp/newarrivalresult (accessed 2023-04-01)

ブログとは？
- スタッフがおすすめの本などを書き込むものが多い。

ブログの例
- 出典: 調布市立図書館 - 調布市図書館ブログ
  - http://book.chofu.com/ (accessed 2021-03-31)

そのほかのコンテンツ
- リンク集、文献探索・調査案内、レファレンス回答集、地域資料索引、関係団体リスト、など、さまざまなものがある。

そのほかのコンテンツの例: 震災関連資料リスト
- 出典: 神戸市立図書館 - 震災関連資料リスト(索引) [現在は「広報紙・ニュース・リーフレット類」のページ]
  - https://www.city.kobe.lg.jp/a09222/kosodate/lifelong/toshokan/117/shinsai_list/index.html (accessed 2021-03-31)

RSS機能 (RDF Site Summary、または、Really Simple Syndication) の提供とは？
- 最新情報などの要約をRSSという形式で保管しておく機能。
- 利用者がRSSリーダやブラウザを使って、その情報を見ることができるようになる。

RSS機能の例
- 出典: 野田市立図書館 - 新着RSS
  - http://www.library-noda.jp/homepage/info/usrss/index.html (accessed 2021-03-31)

3.4 電子メールによるサービス

「電子メール」によるサービスにはどのようなものがあるか？
- 予約や督促の連絡。
- メールマガジン（開館時間・休館日のお知らせ、イベントの案内、新着図書など）。
- レファレンスサービスを提供している図書館もある。

メールマガジンの例
- 出典: 岩手県立図書館 - メールマガジンのご案内
  - http://www.library.pref.iwate.jp/aboutus/mailmag/index.html (accessed 2021-03-31)

レファレンスサービスの例
- 出典: 東京都立図書館 - レファレンスサービス申込
  - https://www.library.metro.tokyo.jp/search/service/reference/application/index.html (accessed 2021-03-31)

図表出典: ライブラリー図書館情報学 3 図書館情報技術論日高昇治著第2版学文社 2017