図書館サービス概論

> 図書館サービス概論 > 4 来館者へのサービス

1. 資料提供サービス
2. 閲覧サービス
3. 館内利用に対するサービス
4. ネットワーク情報資源の館内利用
5. フロアワーク

1. 資料提供サービス

1.1 図書館の目的と資料提供サービス

図書館の目的について、「図書館法」第二条には次のように記載されている。

第二条　この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの（学校に附属する図書館又は図書室を除く。）をいう。
２　前項の図書館のうち、地方公共団体の設置する図書館を公立図書館といい、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人の設置する図書館を私立図書館という。
- 出典: e-Gov法令検索
  - https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC0000000118 (accessed 2021-03-31)

図書館の業務 (資料の収集、整理、保存、提供) は、「利用」を意識して組み立てられ、実行される。

資料提供は図書館の重要な業務であり、「利用」のために必要不可欠なものである。

資料提供サービスは、大きく分けて下記の2種類がある。
- 閲覧サービス
  - 来館者へのサービス。
- 貸出サービス
  - 利用者が自由な時間・場所で利用できるようにするためのサービス。

1.2 資料提供サービスと情報提供サービス

「もの」としての資料を提供するかどうかという観点から、図書館が利用者に提供するサービスを下記のように区別して呼ぶ場合もある。
- 資料提供サービス
  - 「もの」としての資料を提供する。
- 情報提供サービス
  - 「もの」としての資料は提供せず、情報のみを提供する。

基本的に、利用者は資料に記録された「情報」の入手を求めている、と考えられる。したがって、資料提供サービスと情報提供サービスは別々に存在するのではなく、重なりあう存在であるという点に注意する必要がある。

1.3 資料提供としての貸出サービス

貸出サービスの特徴としては、下記のような点を挙げることができる。
- 公共図書館においては、資料提供サービスの中心に位置すると考えられている。
- 利用者が自分の生活スタイルに合わせて利用できる。(期限内の使い方は利用者の自由)
- 誰でも日常的に繰り返し利用できるサービスである。(利用者の抵抗感が最も低い)

1.4 来館者へのサービスの重要性

図書館内での閲覧サービスは、貸出サービスの前提となるサービスとしても重要である。

閲覧サービスで提供された資料や情報は、利用者がさらに貸出サービスも利用するかどうかを考える際に大きな影響を与える、と考えられる。この点からも、閲覧サービスの質をより高めるように努力する必要がある。

2. 閲覧サービス

2.1 閲覧と館内利用

図書館用語の「閲覧」とは？

図書館内で資料を読んだり調べたりすること。館内利用 (in-house use) ともいい、〈貸出〉に対して用いられる。図書館の伝統的な利用方法であるが、閲覧室の座席数や開館時間の制約など、貸出に比べて利用上の難点がある。しかし、参考図書類や雑誌論文など、多くの資料を同時に閲読する場合などには特に有効である。貴重図書などの貸出禁止資料はもっぱら閲覧サービスによって提供される。
- 出典: 図書館用語集 4訂版日本図書館協会 2013. p. 16.

2.2 閲覧方式

閲覧方式とは、利用者が図書館内で資料にアクセスするしくみのことである。

現在の代表的な閲覧方式には、大きく分けて「開架式」と「閉架式」の2種類がある。

開架式は、利用者が直接資料に接する方式である。日本の公共図書館では、1970年代以降、最も一般的な方式となった。

閉架式は、利用者の要求に応じて、職員が資料を書庫から出納する方式である。現在は主流ではないが、スペースの関係で開架に収容できなくなった資料を書庫に移し、その分だけを閉架式として扱う場合がある。

図書館によって、どちらか1つの方式で統一することもあれば、両方を併用することもある。

過去には開架式と閉架式の中間的な方式として「安全開架式」や「半開架式」などと呼ばれる方式もあったが、現在はほとんど使われていない。

開架式と閉架式には、それぞれ次のようなメリット、デメリットがあるといわれている。

1. 開架式
- メリット
  - 利用の際に手間がかからない。
  - 利用者が自分で確認しながら求めるものを選び出せる。
- デメリット
  - 排列が乱れやすい。
  - 亡失が起こりやすい。
  - 資料保存に適した環境を整備することが難しく、資料が傷みやすい。
  - 閉架方式と比較して、書架間隔を広めにする必要がある。
  - 単位面積当たりの収容能力は低くなる。(1平方メートル当たり100冊程度)
2. 閉架式
- メリット
  - 排列が乱れにくい。
  - 亡失が起こりにくい。
  - 資料保存に適した環境を整備することができるため、資料が傷みにくい。
  - スペースを効率的に使える。(サイズ別に収納したり、隙間を少なく収納するなど)
- デメリット
  - 利用者が直接資料に接することができない。
  - 利用者は利用する前に目録で請求記号を調べる必要があり、開架方式に比べると不便。
  - 請求から出納までに時間がかかり、かなり長時間待たされることもある。

2.3 閲覧方式の比較

開架、閉架、安全開架、半開架の4種類を比較すると、次のようになる。
- 書架と閲覧席が、同じスペースにある。
- 利用者は直接書架に接して資料を自由に手に取り、閲覧席に持ってくることができる。
- 館内で利用するだけの場合には、利用者は職員に何もことわる必要がない。
- 利用が終了した資料は、直接書架に戻すか、あるいは、専用の返却台などに置く場合が多い。
- 書架と閲覧席が、まったく異なるスペースにある。
- 利用者は目録で資料を探し、カウンターにいる職員に請求する。
- 職員は書庫に入り、請求された資料を取り出してカウンターに戻り、利用者に渡す。
- 利用者は渡された資料を閲覧席で利用する。
- 利用が終了したら、職員に返却する。
- 書架と閲覧席は、同じスペースにあるが、壁や仕切り柵などによって分離されている。
- 利用者は書架のあるスペースへ入り、資料を探すことができる。
- 書架のあるスペースから閲覧席への資料の持ち出しは、職員がチェックする。
- 利用が終了したら、職員に返却する。
- 無断持ち出しを防ぐため、スペースへ入るときには、かばんなどの持ち込みが禁止される場合が多い。
- 書架と閲覧席は、同じスペースにあるが、書架を職員のいるカウンターの後方に置いたり、書架の前をガラスや金網で仕切るなどの方法で分離されている。
- 利用者は書架に並べられた資料を見ることはできるが、手を触れることはできない。閲覧したい場合は職員に請求し、書架から取り出してもらう。
- 利用が終了したら、職員に返却する。

2.4 CIE映画「格子なき図書館」(1950年) から

当時の閲覧方式の様子が映像として残されている。

旧式の図書館は閉架式で暗い雰囲気、新しい図書館は開架式で明るい雰囲気、と紹介されている。

映像を見ると、書架スペースへの出入りを職員がチェックする「安全開架」であったと思われる。

「格子なき図書館」の映像から
- 出典: 映像でみる戦後日本図書館のあゆみ日本図書館協会 2014.
- 「社会科勉強室」のシーン。
- 画面左奥が安全開架のスペースで、腰ぐらいまでの高さの柵で区切られている。
- 安全開架のスペースに出入りするときには、左手前の机にいる職員のチェックを受ける。

3. 館内利用に対するサービス

3.1 ブラウジング

図書館用語の「ブラウジング」とは、図書や雑誌をざっと拾い読みすることである。(語源は、英語の browse)

また、書架に並んだ図書の背を、ざっと見て回ることもブラウジングと呼ばれる。

開架書架の間や周辺にはブラウジング用として、ゆったりした椅子や、手軽に腰掛けられるソファやスツールなどが置かれることもある。また、簡便な閲覧台が置かれることもある。

図書館によっては教養・娯楽的な図書や雑誌を気軽に読めるようにするために、「ブラウジング・コーナー」や「ブラウジング・ルーム」と呼ばれる専用のスペースを設けることもある。

3.2 調査研究利用

調査研究利用では、下記のような理由から、館内での利用が多くなる。
- 調べる過程で必要な資料が新たに出てくることがある。
- かさばったり、重いために、館外持ち出しが物理的に難しい資料や、禁帯出資料も多い。

調査研究利用には、広めの閲覧机と静かで落ち着いた空間が必要である。(最低でも一人当り90cm幅以上。)

3.3 館内読書

館内読書とは、館内で資料を「通読」して利用することである。

利用者ができるだけ快適に利用できるようにするために、対応する施設・設備の整備が必要である。

畳敷きの読書席や、緑陰の読書空間などのような工夫がなされる場合もある。

3.4 再生機器を必要とする資料の利用

印刷資料同様にブラウジングや館内視聴ができるようにするために、資料の種類に応じた再生機器の整備が必要である。

再生機器の例
- 録音資料
  - レコードプレーヤー
  - カセットデッキ
  - CDプレーヤー、など
- 映像資料
  - 16ミリフィルム映写機
  - ビデオデッキ
  - DVDプレーヤー、など
- マイクロ資料
  - マイクロフィルムリーダー
  - マイクロフィッシュリーダー、など

3.5 電子メディアの利用

電子メディアの種類に応じて、対応する設備や機材、契約料金などが必要である。

電子メディアの種類の例
- パッケージ系電子メディア
  - フロッピーディスク
  - CD-ROM
  - DVD、など
- ネットワーク系電子メディア
  - オンラインデータベース
  - ウェブページ
  - デジタルアーカイブ、など

4. ネットワーク情報資源の館内利用

4.1 ネットワーク情報資源とは？

ネットワーク情報資源とは、図書館で提供される電子メディアの種類のうちで「ネットワーク系」と呼ばれるものの総称である。

その物理的な実体は館外にあり、ネットワーク経由でデータを受信して利用する。

「図書館ハンドブック」では「ネットワーク系電子資料」と呼ばれ、下記のように説明されている。

ネットワーク系電子資料とは、ネットワークを介してアクセスできる、デジタル化されている情報である。
インターネット上に存在する情報を意味する用語には、ネットワーク情報資源、ネットワーク情報源、ネットワーク系電子資料、ネットワーク系電子出版物などがある。それぞれ、対象とする情報資源の範囲に若干の相違がある。
- 出典: 図書館ハンドブック第6版補訂2版日本図書館協会 2016. p. 255.

4.2 ネットワーク情報資源の種類

ネットワーク情報資源には、無料で誰でも自由に利用できるものもあれば、有料で利用契約が必要なものもある。

図書館で利用する場合の条件の違いで区分すると、大きく分けて下記の3種類がある。
- 利用場所が館内に限定されていて、利用の際に利用資格の認証が必要
- 利用場所の制限がなく、館外でも利用可能だが、利用の際に利用資格の認証が必要
- 利用場所の制限がなく、利用資格の認証も不要で、誰でも自由に利用可能

4.3 図書館で提供する場合の注意点

有料の場合には著作権の関係で、印刷やデータの複製などに制限のあることが多い。条件をよく確認し、正しく利用することが大切である。

館外で利用可能なものについては、個々の利用者が個人のパソコンやスマートフォンなどで利用することが多いと思われる。しかし自分では機器を持っていなかったり、図書館に来館してから利用する必要に気づいたりする利用者もいるので、館内で利用できる機器も用意しておくことが望ましい。

ネットワーク情報資源の中には、従来、公的機関が印刷物として継続して発行してきた報告書や統計資料、広報資料、法令資料なども多く含まれている。これらについては、印刷物とデジタル資料の両方を必要に応じて自由に利用できるようにしておくことが望ましい。

4.4 国立国会図書館「図書館向けデジタル化資料送信サービス」について

「図書館向けデジタル化資料送信サービス」とは、「国立国会図書館デジタルコレクション」の「送信サービスで閲覧可能」に該当する資料を、「図書館送信サービス」に参加している図書館の館内で利用できるサービスである。

デジタル化資料送信サービス（図書館送信）は、国立国会図書館のデジタル化資料のうち、絶版等の理由で入手が困難な資料を全国の公共図書館、大学図書館等（当館の承認を受けた図書館に限ります。）の館内で利用できるサービスです。
- 出典: 国立国会図書館 - 図書館向けデジタル化資料送信サービス
  - https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/index.html (accessed 2021-03-31)

4.5 ネットワーク情報資源の例

国立国会図書館デジタルコレクション
- 無料だが、著作権の関係で公開範囲に違いがある。
- https://dl.ndl.go.jp/

ジャパンナレッジ
- 辞書・事典類のデータベース。有料。法人契約と個人契約がある。
- https://japanknowledge.com/

聞蔵IIビジュアル・フォーライブラリー
- 朝日新聞の記事データベース。有料。公共図書館、大学図書館向け。
- 現在の名称は「朝日新聞クロスサーチ」。(2022年のリニューアルの際に名称変更)
- http://www.asahi.com/information/db/2forl.html

市川市立図書館「江南区電子図書館閲覧サービス」
- 無料。対象は市川市内在住・在勤・在学者。IDとパスワードが必要。
- http://www.city.ichikawa.lg.jp/pla09/1311000001.html

ナクソス・ミュージック・ライブラリー
- 音楽の配信サービス。有料。契約には、個人、法人、図書館の3種類がある。
- https://ml.naxos.jp/

サピエ　視覚障害者情報総合ネットワーク
- 点字・録音図書を提供。個人は無料、団体は有料。
- https://www.sapie.or.jp/

e-Stat 政府統計の総合窓口
- 公的な統計データを提供。無料。利用制限なし。
- https://www.e-stat.go.jp/

青空文庫
- データはテキスト形式で提供。無料。利用制限なし。
- https://www.aozora.gr.jp/

5. フロアワーク

5.1 フロアワークの意義

図書館用語の「フロアワーク」とは、サービスデスク以外の場所での、利用者への直接サービスの総称である。

図書館員がデスクを離れて利用者にはたらきかけるという点で、積極的なサービスのひとつである。

5.2 サービスプロセスの舞台

利用者へのサービスの「始まり (利用者の要求確認)」と「終わり (利用者への資料提供)」は、サービスデスクで対応する場合が多い。

しかし、その中間の過程では、たとえば下記のように、フロアでのサービスが一般的である。
- 求められた資料を該当する書架まで行って取って来る。
- 探しているテーマに関連する書架を案内する。
- 寄せられた質問に対する回答が得られそうな資料を参照する。

サービスの流れをさえぎらず迅速に行なうためには、デスクとフロアを一体のものととらえる必要がある。

5.3 利用者を主役とする場

図書館職員は、利用者が多くの時間を費やす場所である「利用スペース (フロア)」へ積極的に出向いてサービスを提供することが大切である。

5.4 利用者との交流の場

利用者はデスクではなくフロアにいる図書館職員に声をかけることが多い、といわれている。その理由としては、たとえば下記のようなことがある
- デスクの図書館職員は貸出や返却等の作業で忙しそうなので、尋ねるのを遠慮してしまう。
- デスクは図書館職員の周りに利用者が集まる場所であることから、プライバシーが尊重されにくい。
- 利用者が尋ねたいことは、デスクにおけるやりとりだけで解決するとは限らない。

フロアの特徴は、利用者にとって緊張せずに安心してコミュニケーションを交わすことができる場所であるという点にある。

図書館職員は、この特徴を十分に理解してサービスを提供しなければならない。

5.5 充実のための方策

フロアワークを効果的に行なう方法には、大きく分けて下記の2種類がある。
- デスク業務に携わる者の中にフロアワークも兼任する図書館職員を含める。
- デスク業務とは別に、フロアワークのローテーションを組む。

フロアワークを実施する際の注意点としては、下記のようなものを挙げることができる。
- 利用者が声をかけやすい雰囲気であるように心がけ、質問には迅速・的確に回答する。
- 利用者の自由度や快適度を妨げるような干渉はしない。
- 豊富な経験を有した優秀な図書館職員がフロアに長い時間いられるよう、諸条件の整備に努める。